キュナード

著者

フィリップ・グレイ氏は、アートに対する情熱と同じくらい、冒険と発見に対する情熱も持ち合わせています。スタジオで静かに絵を描くのは彼のスタイルではありません。行動派の彼は、自分が描く自然とじかに触れ合うのを好みます。意外性のある、しばしば危険な場所で描かれた「極限アート」によって、彼は芸術家兼冒険家というユニークな評価を獲得し、その功績は伝説的なものとなりました。

 

フィリップは、生まれながらにしてアートと冒険に大きな情熱を抱いていました。1977年にアイルランド海軍に入隊しましたが、深海ダイバーという通常とは異なる任務に就き、沈没船や不発地雷、さらには未発見の遺体なども探しました。15年間にわたり、職場での1日は危険と隣り合わせの連続でした。

時が経つにつれ、フィリップは新たな挑戦について考え始めました。1992年、彼は軍を離れ、絵画への情熱を追求するという意外な行動に出ました。一見、アクションや冒険から離れたかに見えるかもしれませんが、実は正反対で、彼は未知の世界へと足を踏み入れることになったのです。

 

多くの芸術家が真実と美という伝統的な理想を芸術の中に抱いているのに対し、フィリップは、人生模様や完璧さの追求にはさらなる原動力、つまりドラマが加わると考えています。彼はキャンバスに躍動感、筆遣いにアクション、そして人生に活気をもたらします。

 

とはいえ、これらの作品はストーリーのほんの一部。フィリップが他の芸術家と違う点は彼の創作のプロセスにあります。快適なスタジオで単にたくさんのサメが泳ぐ深海を想像するよりは、実際に海に潜ってサメを近くで見る方がいいのではないか。あるいは、上空から見た世界を単に思い描くだけでなく、300m上から実際にスカイダイビングしながら絵を描いてみたらどうだろう。フィリップにとっては、このようなプロセスにかかわるドラマが作品にドラマ性を与えるのです。彼は、エベレストのベースキャンプ、バハマ沖水深18mのサメだらけの海域、ボルネオの熱帯雨林、アイスランドの火山、メキシコの水中洞窟、サハラ砂漠でのスカイダイビングなど、困難な場所で仕事をしてきたほか、最近では中国の千島湖の湖底に眠る有名な獅城を描きました。

フィリップの波乱万丈なライフスタイルを見ていると、常に次の冒険を求めているだけだと感じるかもしれませんが、実際の彼は、知性、温かさ、ウィットにあふれる「アドレナリンジャンキー」で、穏やかな口調で話す思慮深い人物です。慈善活動は彼の人生の重要な一部であり、BBCチルドレン・イン・ニード、コルカタ(旧カルカッタ)のストリート・チルドレンを支援するホープ・インターナショナル開発機構をはじめ、多くのチャリティに寄付をしています。

 

アイルランドで描く作品には、フィリップの優しい一面がはっきりと表れています。どのような旅行者にも、帰って来られる場所が必要です。彼はどれほど遠くへ旅をしても、必ず故郷に帰ってきます。アクティブな彼の性質は、多くの作品に高いドラマ性をもたらしてきましたが、これらの魅惑的な作品では、ドラマはムードに取って代わり、作品を鑑賞する人は、遠くから眺めるよりも近寄って作品の中に足を踏み入れるよう促されます。

フィリップの油彩画とパステルは現代の芸術愛好家たちを魅了し、数々の賞に輝いたほか、メディアや有名コレクターの目に止まってきました。評判が高まるにつれ、彼のオリジナル作品の需要も高まり、英国で最も収集価値のある芸術家の1人としての地位を確立しました。芸術家としてだけでなくライブペインティング・パフォーマーおよび談話家としても活躍し、キュナード船の常連ゲストとしてライブペインティングを披露しお客様を魅了しています。インスピレーションに満ちたフィリップの作品は、あらゆる壁を超えさまざまな人に愛されています。それは、ビル・クリントン氏やジョージ・W・ブッシュ氏がアメリカ大統領時代にホワイトハウスに彼の作品を飾ったという事実に如実に表れています。

 

フィリップの最新コレクションや新しい芸術家のご紹介など、詳しくは次回乗船された際にアート・ギャラリーでアートコンサルタントにご相談ください。

The Clarendon Fine Art Gallery on board Queen Victoria

同記事は『Cunarder』(2023年夏版)に初掲載されました。

キュナードの船上体験